研究テーマ

研究テーマの概要

首都大学東京 大学院理工学研究科分子物質化学専攻 野村琴広

有機金属化学や分子触媒化学・合成化学を基盤に、有機高機能材料や中間有用化合物の環境調和型の精密合成プロセスを構築可能とする新しい高性能分子触媒の設計・合成、反応中間体の単離・構造決定やその反応性を通じた触媒の作用機構の解明、及び触媒の特徴を生かした新規高機能材料の合成と特性解析に取り組んでいます。特に、炭素-炭素結合形成の基本反応であるオレフィンの配位・挿入やメタセシス反応に焦点をあて、中間体(アルキル錯体やアルキリデン錯体)の合成と反応性に関する化学を基盤とした分子触媒の設計・創製に注力しています。概要は以下の通りです。

1.新しいオレフィン系高分子機能材料の創製を指向した高性能分子触媒の設計・創製

新しい触媒設計の基本概念の提案に基づく、高性能分子触媒の設計・創製、及びその特徴を生かしたオレフィン系高分子機能材料の創製に関するテーマに取り組んでいます。特に高性能遷移金属錯体触媒の設計・合成や重合機構に関する基礎研究、錯体触媒の特徴を生かした新しい合成手法や共重合体の精密合成と特性解析に関する研究を行っています。

非架橋のハーフメタロセン型チタン錯体触媒の分子設計に成功しています。「架橋による(かさ高いオレフィンが配位可能な)広い配位空間の形成」を目的とする従来触媒の設計指針に対し、「配位子の自由回転による特異な反応場の形成、及び錯体の電子・立体的性質による反応性の精密制御」を目的とする設計指針を提案し、現在では触媒設計における先導的な新概念として知られています。
特に中心金属や配位子の異なる各種錯体の合成・同定・構造決定とその反応性に関する研究を基盤に、触媒機能と構造との相関(中心金属や配位子の電子・立体効果)や触媒の作用機構、及びその特徴を生かした(従来触媒で合成できない)新しいオレフィン系ポリマー(エチレンと各種オレフィンとの新規共重合体)の精密合成と特性解析に関する研究で、数多くの革新的・先駆的な成果を紹介しています。この研究成果は、数多くの学術論文や総説・解説、国際会議や国内外での数多くの招待講演などを通じて、極めて高い評価を得ています。

また、キレート多座配位子を有する前周期遷移金属アルキル錯体の合成と反応性に関する研究に取り組み、エチレン重合に高い触媒活性を発現するTi-Al 2 核錯体やカチオン性Ti-アルキル錯体の設計・合成・同定・構造決定に初めて成功した。従来の化学プロセスでは多量の助触媒(有機アルミニウム化合物)が必要となりますが、これらの触媒ではMAO などの有機Al 助触媒が(ほとんど)要らないので、環境調和型の革新的な合成プロセスが構築可能になると期待しています。

Scheme 1

 

2.有機バナジウム錯体の合成・同定と反応性に関する研究

オレフィンとの反応性が極めて高いバナジウム触媒*の特徴を生かした高性能分子触媒の設計・創製に関する研究に取り組んでいます。特に最高酸化数の5 価錯体に注目し、オレフィン重合に高性能を発揮する錯体触媒の創製や、環状オレフィンのメタセシス重合を進行させる(従来の遷移金属触媒より熱安定性に優れる)アルキリデン(カルベン)錯体触媒の合成・構造決定に初めて成功しています。特に鍵中間体であるアルキル錯体やアルキリデン錯体の合成・同定に成功し、関連錯体の合成や反応化学に関する数多くの有用な知見を得ています。関連の有機金属錯体の合成例は希少で、周辺化学の知見も極めて限られていることから、独創性に優れた成果として既に高評価を得ており、さらにテーマの発展を期待しています。
特に最近では、配位子の電子・立体的性質や触媒・助触媒の相互作用を基盤に、高活性・選択性を示すエチレン二量化触媒の創製と機構解析が可能となってきました。また、各種アルキル・アルキリデン錯体の合成と反応性に関する研究に取り組み、上記の高性能メタセシス触媒の創製にも成功しています。また、所定のアルキリデン錯体では、ベンゼンのC-H 結合活性化が可能となり、中間体の単離・構造決定も含めた機構解析にも成功しています。この研究成果も、数多くの学術論文や総説・解説、国際会議での数多くの招待講演などを通じ、独自性の高い研究成果として国内外で極めて高い評価を得ています。

Scheme 2

 

3.遷移金属アルキリデン錯体触媒によるオレフィンメタセシス重合: 高分子の精密集積化新手法を利用した高分子機能材料の精密合成と特性解析

モリブデンやルテニウム錯体触媒を用いるオレフィンの(リビング開環)メタセシス重合により、分子量が揃った糖鎖ポリマーや(従来手法で合成した材料より)光・電気特性に優れる共役高分子の精密合成新手法を確立しています。さらに、モリブデン錯体触媒によるポリマー末端の定量的な官能基化を基盤とした、主鎖や側鎖の長さ・組成が厳密に揃った両親媒性高分子ナノ集積体の精密合成や星型ポリマーの精密合成・表面修飾にも成功しています。 さらに最近、両末端に官能基を有する共役ポリマーや共役単位が厳密に揃った末端官能基化共役オリゴマーの精密合成が可能となりましたので、緻密な構造・集積化による新機能の発現や構造・物性相関に関する知見の確立や、材料の特徴を活かした新材料の創製を目的に取り組んでいます。

Scheme 3

 

4.高性能分子触媒による環境調和型の合成新手法の開拓と工業化プロセスへの実用化

a) 自然界に豊富に存在する有用資源・不活性分子であるアルカンを、室温付近でオレフィンへ直接脱水素できる均一系ロジウム錯体触媒を世界ではじめて見出しました(1988 年)。
b) 水と一酸化炭素を還元試剤として、(他の不飽和官能基は還元されずに)芳香族ニトロ基のみを優先的に還元する超効率(Rh,Ru)触媒を見出し独自の反応機構を提唱しました。(1995 年度日本化学会 第1回技術進歩賞受賞)
c) 医農薬や香料などの基幹中間体であるC6 オレフィンを、プロピレン二量化で効率合成する高性能錯体触媒の創製と製造プロセスへの実用化に成功しています。特に強酸によるカチオン性ニッケル-ヒドリド錯体の効率的生成・活性化に基づく高性能触媒の新しい設計概念を提案しました。 (2001 年度触媒学会 学会賞受賞)
d) 従来法(金属水素化物による化学量論的還元や超高温・高圧条件下での触媒的水素還元)より温和な条件下で実施可能な、エステルやカルボン酸の新しい触媒的水素還元法を開発しています。
e) リビング重合の特徴を生かした、ポリマー末端固定化型の錯体触媒の創製と効率リサイクル型の高選択的合成プロセスへの適用に関する研究に取り組んでいます。

 

主要な最近の総説・解説
1) “オレフィンメタセシスを利用した高分子機能材料の精密合成‐精密重合を基盤とした集積化機能材料の創製‐”
有機合成化学協会誌 2013, 71, 2-13.
2) “高分子合成触媒の研究における近年の変遷と今後の展望”
触媒技術の動向と展望2012,触媒学会(編),pp. 73-83 (2012); 触媒(転載) 2012, 54, 466-473.
3) “(Imido)vanadium-alkyl, alkylidene complexes exhibiting unique reactivities towards olefins, phenols, and benzene via 1,2-C-H bond activation”
J. Chin. Chem. Soc. 2012, 59, 139-148. Mini Review, Invited submission 中國化学会(台北)
4) “Half-titanocenes for precise olefin polymerisation: Effects of ligand substituents and some mechanistic aspects”
Dalton Trans. 2011, 40, 7666-7682. Perspective, Invited submission, a themed issue dedicated to d0 organometallics in catalysis
5) “New approaches in precise synthesis of polyolefins containing polar functionalities by olefin copolymerizations using
transition metal catalysts,” Chem. Rev. 2011, 111, 2342-2362.
Editor Invitation, Special Issue, Frontiers in Transition Metal Catalyzed Reactions
6) “New approaches in precise synthesis of polyolefins containing polar functionalities by olefin copolymerizations using transition metal catalysts,” 有機合成化学協会誌, 2010, 68, 1150-1158. Special issue in English
7) “新しいポリオレフィンの創製を指向した高性能チタン錯体触媒の設計,” 触媒, 2010, 52, 553-558.
8) “(Imido)vanadium(V)-alkyl, -alkylidene complexes exhibiting unique reactivity towards olefins and alcohols,” Chem. Sci., 2010, 1, 161-173. Mini Review
9) “Syndiospecific styrene polymerization and ethylene/styrene copolymerization using falf-titanocenes: Ligand effects and some mechanistic aspects,” Catal. Surv. Asia, 2010, 14, 33-49. Account
10) “Precise synthesis of end-functionalized polymers by living ring-opening metathesis polymerization (ROMP): Efficient tools for synthesis of block/graft copolymers,” Polymer 2010, 51, 1861-1881. Feature article
11) “Defect-Free 共役ポリマーの環境調和型の精密合成新手法: オレフィンメタセシスを利用した立体特異性重合,” 月刊ファインケミカル, シーエムシー出版, 2010, 64-70.
12) “Copolymerization of ethylene with styrene: Design of efficient transition metal complex catalysts,” In Syndiotactic Polystyrene – Synthesis, Characterization, Processing, and Applications, J. Schellenberg (Ed.), John Wiley & Sons, Inc., 2010, 60-91. Book Chapter
13) “Precise synthesis of amphiphilic polymeric nano architectures utilized by metal-catalyzed living ring-opening
metathesis polymerization (ROMP),” In Surface Coatings, M. Rizzo, G. Bruno (Eds.), Nova Science Publishers, Inc.,
New York, USA 2009, 123-152. (Book Chapter)
14) “Half-titanocenes containing anionic ancillary donor ligands as promising new catalysts for precise olefin
polymerization,” Dalton Trans. 2009, 8811-8823. Perspective
15) “新規ポリオレフィンの創製を可能とする高性能遷移金属錯体触媒の設計・創製,” (社)日本ゴム協会誌
2008, 81, 400-407.
16) “高機能ポリオレフィンの創製を指向した高性能分子触媒-新しいエチレン系ポリマーの創製を可能とした研究例-,” 野村琴広, 板垣浩司, 触媒技術の動向と展望2007,触媒学会(編), 2007, 40-52.
17) “Nonbridged half-metallocenes containing anionic ancillary donor ligands: New promising candidates as catalysts for precise olefin polymerization,” K. Nomura, J. Liu, Sudhakar P., B. Kitiyanan, J. Mol. Catal. A 2007, 267, 1-29.
18) “リビング開環メタセシス重合の最近の動向,” 野村琴広, Murphy J. J., 宮本義孝, 触媒 2006, 48, 165-171.